「幸恵、一緒に行ってくれる?」
「もちろん行くわよ、今回のことは私も責任を感じてるしさ」
「幸恵ならそう言ってこれると思ってたわ」
「で、期間はどれくらいなの?」
「未定だってさ」
「あんな大騒ぎを起こしたんじゃ・・・、でも月で暮らすより面白いかもよ、恵美子」
月の姫君、かぐや姫の恵美子は普段から素行が問題視されていたが今回はただでは済まなかった。 悪酔いした恵美子は大暴れ、友好関係にあるネギ星人の使節団に足蹴りをくらわす大ハプニング。 これにはさすがの月の王様もブチ切れ、娘の恵美子を月の裏庭になる地球へ島流しにすることにした。 それでも彼女は月のお姫様、侍女を伴うことを許された恵美子は幼馴染の悪友の幸恵に一緒に地球へ行くことを頼んだ。
「で、何を着てく?」
「恵美子は月の姫君よ、やっぱ正装じゃない」
「裏庭に島流しよ、地球人にナメられないよう気合を入れてパンクファッションとか・・・」
「そうなると髪は金髪モヒカンか?」
何を着て裏庭の地球に第一歩を刻もうかと悩んだ彼女たちだったが、地球での生活費増額と引き換えに恵美子はかぐや姫の正装、幸恵は侍女の正装で旅立った。
時は十月の最終日、恵美子はかぐや姫の正装となるピンクのウサギの着ぐるみ、幸恵は白黒のメイド服といういでたちで降り立ったのが夜の東京は渋谷。 恵美子と幸恵は驚いた。 文明も科学力も月とスッポンほど違う僻地のど田舎、月の裏庭住まいと思っていた地球人が月の正装と同じような服を着て大騒ぎしている。 呑むほどに酔うほどに二人は道ゆく人々に歓迎され歓待され気分は幼い頃の地元に帰ったような。
「もしかして恵美子、これってかぐや姫の歓迎会?」
「えっ、私って地球でそんな有名だったの?」
「それにしても月の裏庭がこんなに面白そうな場所とは知らなかったわ」
「島流しも悪くないかも、ねえ幸恵」
いきなり調子づいた二人、そのまま東京は下町に住み着いた。 いくら恵美子が月の姫君、幸恵が御付きの侍女とはいえ彼女たちは島流しの身分。 父親の月の王様も娘が少しでも反省するように、願わくば多少なりとも更生するようにと多分な生活費は認めなかった。 しかしそんな逆境にメゲる二人ではない、渋谷六本木に住むのは諦め削った住居費を遊ぶ金に回すための下町暮らしだった。
そんな恵美子と幸恵だったが、どうやら二人には下町が合っていたようだ。 毎晩のように近所の飲み屋に入り浸り常連客の頭を張り飛ばし、かぐや姫恵美子が裏庭の絶対的権力者であるかのように我儘放題勝手放題に振る舞った。 そしてご近所さんからは ”ヤンキー恵美子とチーママ幸恵” と呼ばれ恐れられていた。
「おい月光堂、酒をつげ!」
「月光堂は潰れてるぜ」
「何か言ったか、銀次!」
「イテッ! 何をしやがる恵美子」
「大工の銀次、頭を張られたぐらいで喚くな」
「なに、幸恵まで言うか。 源さん、二人になんか言ってくれ」
「おい恵美子に幸恵、年上を敬え!」
「おい、源コウよく聞け。 アタイはかぐや姫恵美子だ!」