雨の夜空に浮かぶのは巨大な光の輪、それは観覧車。 夜になると煌めく電飾に飾られ動き出す観覧車、それは何時も無人。 そして誰も観覧車が回り続ける理由を知らない。 分かっていることは、あの観覧車は誰も近づくことの出来ない別世界だということ。
それは希望、微かな希望。 ダリアにとって夜空の観覧車はこことは違う別の世界があるということを教えてくれる希望の光。 雨に濡れ、夜空に輝く観覧車を見つめ彼女が思うのは一年後に戻って来ると約束したインダサンの言葉。
彼は必ず戻って来る。 そして私にロケットの飛ばし方を教えてくれる。
私はロケットの飛ばし方を覚えるの。 そしたらあの観覧車の向こう、あの観覧車から見える遠くよりももっともっと遠くが見えるはず。
昼間は動かない観覧車、そこは廃墟。 スラム街の真ん中、高いコンクリート壁と鉄条網に囲まれ丘の上で錆びた鉄骨を晒す観覧車。 スラム街が出来る前、遠い昔から夜にだけ回る無人の観覧車。 分かっているのは、そこは廃墟そして夜だけの世界。
人は夜の観覧車を眺め、いつかあの観覧車に乗れることを夢見る。 それは夢。 それが儚い夢だと知りながら、それでも何時かその日が来ることを夢みる。 そんな日など永遠に来ないと知りながらも、それでも人は夢を見る。
漆黒の空から彼は戻って来る。 そしてロケットの飛ばし方を覚えたら・・・
あの観覧車の向こう、この厚い雲の向こうへと。 ロケットならこの世界を見ることのない別の世界へと、きっと私を連れて行ってくれるはず。