もしかして、これも大宇宙の意志なのか・・・

 「我々と姿がそっくりで、しかも巨大な生物がいるとの噂を耳にしたのだが?」

 「はい、マイ・マジェスティ。 私もそんな話を聞いたことがあります」

 「そうか、その話の真偽を知りたいものだ。 情報局長を呼んでくれ」

 「直ちに、マイ・マジェスティ」

 大宇宙ではいたって標準的な知性と科学力を持つケンタ星人だが、その身長は知的生物の平均から余りにもかけ離れた1ミリ程だった。 その大きさ故のトラブルも多く、大宇宙冒険ガイドブックにも要注意事項として記載されている。 例えば平均的な大きさの宇宙人が彼らに気付かず踏み潰してしまう事故等の多発。 外交式典でケンタ星人の儀仗兵が相手方の外交団に踏まれ危うく戦争になりかけたことは稀な事例としても、宇宙船発着場で駐機していたケンタ星人の宇宙船が清掃員にゴミ箱に放り込まれたりとトラブルが絶えなかった。 しかも稀に存在する規格外の巨大宇宙人からはバクテリアか細菌程度にしか認識されていないとの話も耳にする。

 「マイ・マジェスティ、噂は本当です。 月が裏庭として管理している地球とかいう星に ”ニワトリ” と呼ばれている我々にそっくりな姿をした生物が存在し、その大きさは我々の五百倍ほどあるようです」

 「情報局長、月の王宮とは外交関係があったと思ったが」

 「月の王宮とは以前に新書を交わしたことがあります、マイ・マジェスティ」

 「そうか、ならば月の王宮に地球のニワトリの調査の許可を求めてくれ」

 「直ちに月の王宮に書簡を送り許可を求めます、マイ・マジェスティ」

 「もしかしたらこれで、我々ケンタ星人の悲願が・・・」

 「マイ・マジェスティに神のご加護を!」

 ケンタ星人も大宇宙に飛び出す前はいたって平和に暮らしていた。 だが大宇宙で他の宇宙人と出会った彼らは図らずも数々のトラブルから深刻な身長コンプレックスを抱くことになってしまった。 それでも生真面目な彼らはコンプレックス克服に向けあらゆる可能性に挑戦、しかし全ては失敗に終わった。 そんな時に耳にしたのがケンタ星人にそっくりな巨大生物の存在。 それはまさに神の啓示に等しい超歴史的な出来事だった。 前向きなケンタ星人はこれを大宇宙から彼らに与えられた恩寵、大宇宙の意志として捉えた。 地球のニワトリを調査しないといことは神への叛逆と考えたマイ・マジェスティは直ちに行動を起こす。 そしてマイ・マジェスティが月の外交院からの返事の遅れに痺れを切らし、催促の書簡を送ろうかと思い悩んでいた時に返事が届いた。

 「マイ・マジェスティ、月の王宮がニワトリの調査を許可しました」

 「そうか、月の王宮の気が変わらぬうちに直ぐにでも調査隊を送ってしまえ」

 「ご安心ください、マイ・マジェスティ。 すでに調査隊は編成してあり、地球への着陸コースも調査済みです。 幸いにも最近、月の王宮の船が地球に着陸しておりそれと同じ着陸コースを使えば問題はないかと」

 「そうか、それは素晴らしい。 月の王宮の船と同じならば、それは最も安全なコースに違いない。 直ちに調査隊を送れ!」

 「マイ・マジェスティ、調査隊はすでに地球周回軌道に潜んでおります。 マイ・マジェスティの命令直下、直ちに地球着陸軌道に進入いたします」

 「情報局長に勲章を!」

 「コケコッコ〜、マイ・マジェスティ!」

 確かに気の短いケンタ星人、月の王宮からの返事が届いた三十分後にはニワトリ調査隊が地球着陸軌道に入っていた。 しかし心配なのはケンタ星人が参考にした地球着陸コースがかぐや姫恵美子が東京渋谷に着陸した時のものだった。 もしかして、これも大宇宙の意志なのか・・・

 

 

 

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