ここは東京上空千メートル、時は深夜の二時過ぎ。 小さな小さな宇宙船が渋谷の街に着陸しようとしていた。
「隊長、着地地点が意外と込み入っているようですが」
「ここで間違いないはずだが・・・、航海士、着陸地点の再確認を」
「この場所で間違いありません、隊長」
「それにしても狭苦しい場所だ。 多少なりでも見通しの良い場所を見つけよう」
小さな小さな宇宙船は高度を下げ着陸場所を探すのだが・・・
「隊長、あの広い廊下みたいな場所はどうでしょうか。 時々巨大な構造物が流れていますが、端の方なら大丈夫かと思います」
「あの場所なら見通しも良さそうだ」
気は短いが生真面目なケンタ星人、いきなり大規模なニワトリ調査団を送るようなことはしない。 先ずは小規模な探検調査隊を送り下調べから始めるのが彼らの行動様式。 そんなこともあり今回渋谷に着陸しようとしているのは5センチほどの小さな小さな宇宙船だった。 もっとも地球周回軌道の母船にしても全長60センチ程度で小惑星のカケラか宇宙空間のデブリか、早い話がゴミと間違われても仕方がない大きさなのだが。
「こちらは調査船、これより着陸に入ります」
「了解、着陸予定地点を確認。 追跡準備完了、幸運を祈る。 コケコッコ〜!」
「降下開始、コケコッコ〜!」
小さな小さな宇宙船が着陸しようとしている場所、そこは首都高速3号渋谷線。 確かに路地裏よりは見通しも良く、深夜なら走る車も少なく路肩の隅なら何とかなりそうではあるが・・・
気は短いが生真面目なケンタ星人、いきなり強襲着陸をしてしまうような無謀なことはしない。 最初に右見て左見て、それから前を見て後ろも見て、もちろん上下の確認も怠らない。 それからそろりそろりと着陸するのが大宇宙宇宙船航行操舵規則。 そして規則を遵守するのがケンタ星人の行動様式。 だがそれで全てが上手くいくとは限らないのが大宇宙の大原則だ。 確かに深夜の首都高速の通行量は少ないが走る車のスピードは出ている。
そうですーーー小さなアンラッキーは突然やって来る、そしてこの時も。
不運にも小さな小さな宇宙船がゆっくりと道路側壁際地上1メートルまで降下した時、安全確認をした時には見えなかった大型トラックが猛スピードで宇宙船の横を通過した。 道幅が狭い首都高速、小さな小さな宇宙船に超大型台風並みの突風が襲いかかった。 小さな小さな宇宙船はもちろん突風に煽られ側壁に衝突、道路中央へと飛ばされた。 まあこれまでにも色々と理不尽な扱いをされてきたケンタ星人の宇宙船はこの程度の衝撃で壊れる作りではないが・・・、しかし不運は重なるもの、道路中央付近をフラフラと飛行中に二台目の大型トラックの側面に衝突し路面に叩きつけられ転がった。 そして不運はさらなる不運を呼ぶのか、路上に転がっているところを三台目の大型トラックに轢かれるという止めを刺された。 多少のことでは壊れないケンタ星人の宇宙船だったが、これには原型を留めぬスクラップと化した・・・ここは超多忙な東京のど真ん中、丁重な安全運転が事故を招くこともある。
「わっ! キャプテン、調査船が・・・」
「なっ、何という大惨事だ。 直ぐに保険会社に連絡しろ!」
地球周回軌道のニワトリ調査隊の母船から直ちに保険会社にレスキューの緊急出動コールが入れられたが、地球はオプション設定のF区分非文明危険未開地域ということで出動を断られた。 しかも調査船の事故現場は保存され事故調査が行われることもなく、小さな小さな宇宙船は黄色い首都高速パトロールカーに路上のゴミとして扱われ捨てられた。
無論この話はこのままでは終わらない。
この悲惨な大惨事はもちろんマイ・マジェスティに報告されたのだが・・・ニワトリ調査隊からの輝く未来への報告を夢見ていたマイ・マジェスティは大激怒。 まあそれも当然だろうーーー大宇宙宇宙船航行操舵規則を遵守し安全な着陸を試みていた宇宙船が当て逃げされ、しかも悲惨な死亡事故にもかかわらず事故過失割合十割の地球人には完全無視され、その上にゴミ扱いされたのである。 マイ・マジェスティは叫んだ!
「我々は大宇宙の意志に逆らう下等生物に鉄槌を下さねばならない、コケコッコ〜!」
「コケコッコ〜、マイ・マジェスティ!」