見るまえに跳べ、跳んだら落ちた

 俺はいつもの飲み屋で、同じ町内に住む偉い先生の横に座った。 その偉い先生は、偉い先生が先生と呼ぶ、もっともっと偉い先生の言葉を教えてくれた。

 その言葉は、”見るまえに跳べ

 なんてカッコいい言葉だ。 俺はその言葉を聞いた瞬間、全身が痺れた。 俺はこんなにカッコいい言葉を知っている、俺の横に座る先生は尊敬に値すると思った。 

 そして俺は、偉い先生に聞いてみた。「どうして偉い先生は、そんなに偉くなれたんですか?」

 偉い先生は、俺に言った。「”見るまえに跳べ” この言葉を信じて毎朝、声に出して唱えていた。 だから、私は偉くなれた」

 それを聞いて、もしかしたらこんな俺でも偉くなれるのかと思い、「偉い先生! もし俺がこの言葉を信じて毎日を過ごしたら、先生みたいに偉くなれると思うか?」

 俺の尊敬する偉い先生は、酒で赤らんだ顔をさらに赤くして、「そうだ! そのとうりだ。 君の言っていることは、正しい。 この素晴らしい言葉で、人は変われる。 君でも、変われる!」

 俺は感激した。 俺の尊敬する偉い先生から、こんな素晴らしい励ましを受けるとは思ってもみなかった。 そうだ、行動あるのみだ。 実行だ。 そして俺は、先生のような偉い人間にる・・・なれるんだ!

 俺はさっそく、次の日に仕事場で実行した。 普段の生活で実行してこそ、本当に変われるーーー俺の尊敬する、偉い先生の助言だ。

 俺は、見るまえに跳んだ。 跳んだら・・・落ちた!

 グギィ。 足の骨が折れた。

 俺は足場を踏み外し、落ちた。 すぐに現場の隣にあった接骨院に担ぎ込まれ、足をギブスで固められた。

 その晩、いつもの飲み屋で親方に会った。 親方に、なぜ足場から落ちたかを聞かれたので、俺は尊敬する偉い先生の話をした。

 鳶の親方は、俺の頭を小突いて、「テメエ、そりゃぁ、あたりめえだろうが」

 そして親方は、それ以上何も言わず、いつものように酒を飲ませてくれた。 何が当たり前なのか、俺にはよく分からなかったが、酒のせいか折れた足の痛みが和らいだような気がした。

 

 

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