大宇宙と外宇宙との境界近くに位置し、海賊達が愛してやまない自由都市サンクトモロビッチ。 そこは海賊達の自意識を心優しく理解してくれる慈愛に満ちた小さな港町だった。 すべての物に、すべての行為にTAXが付きまとうこの大宇宙、しかしこの自由都市サンクトモロビッチだけにはTAXというものが一切存在しなかった。 アウトローを自認する海賊達、彼らにとってTAXを払うという行為は彼らのプライドを傷つける以外の何ものでもなかった。 そういう意味でも港町サンクトモロビッチは本当に海賊達が心安らかに過ごせる港だった。
言うまでもなくそんな港町サンクトモロビッチにはいつでも沢山の海賊船や闇ブローカー達が集まり、色々なビジネスが繰り広げられていた。 当然それらのビジネスからは莫大な利益が生まれる訳だがサンクトモロビッチはそんことには全くの無関心・・・大宇宙に絶対神として存在するTAXをこの港町では完全無視そのものだった。
それにしても税金を払うという行為が大宇宙への忠誠心でありアンタッチャブルな絶対神とし君臨するTAX、いくら外宇宙との境界近とはいえ何故にそのような星が大宇宙で存在し得るのかという疑問は当然ある。 そして、その答えも勿論ある。
誰もが想像しうる理由としては税金を徴収し使う側の人間ほど税金を払うことのバカ馬鹿しさを肌身で実感し、可能な限り自分は払いたくないと思っているということ。 そしてそう思っている彼らこそが色々な理由で税金を払う必要のない場所を切実に欲し、その可能性を常に追い求めている事実がある。 だがそれ以上に自由都市サンクトモロビッチ自身が大宇宙でその存在を可能にするためにはTAXフリーであり続ける必要があった。
さて、サンクトモロビッチは古い街並みの意外と小さな港町で住人もそれほど多くはなかった。 しかし町外れには場違いなほどの最新鋭の巨大缶詰工場があり、日々大量の缶詰が生産されていた。 そして工場で生産される “Canned Freedom Made by St. Morobitchi” と印刷されたラベルが貼られた缶詰を大宇宙の大都市で大量に販売し、その利益がTAXフリー自由都市としてのサンクトモロビッチの存在を可能にしていた。
”自由の缶詰” として大量に売れる缶詰缶、だが驚くべきことにその缶詰缶には何も入っていなかった。 空の缶詰缶、 “Canned Freedom Made by St. Morobitchi” のラベルが貼られた自由の缶詰。 それでもその缶詰缶には一切のクレームは無く、不思議なことに大都市では驚きの高値で大量に売れていた。
大宇宙と外宇宙の境界に位置するサンクトモロビッチ、大宇宙の大都市に住む人々にとってはアウトローの集まる危険な港町。 しかしそこは大宇宙では想像すら出来ないTAXフリーという海賊達が集まる自由の港町、子供向けSFフィクションでしか成立しないような超現実離れの自由と冒険を思い描かせるロマンとファンタジーの世界としての存在。 しかもそこは確かに実在する場所、だが遠すぎる危険すぎるという理由で行かない行けない港町サンクトモロビッチ・・・それは強力なブランド力。 そのブランドの魔力が人々を虜にし、彼らは空の缶詰缶を高値でも買っていた。 そして空の缶詰缶を開け、サンクトモロビッチの空気を解き放つことで彼らはロマンとファンタジーの港町の実在を感じ、自分自身のお伽噺とTAXフリーという超現実離れしたロマンとファンタジーの繋がりを妄想し、そこにひと時の癒しを得ていた。 特に大都市の高学歴インテリ金持層にとっては高価な自由都市サンクトモロビッチの自由の缶詰をパーティーで開けることで彼らの自尊心を大いに昂らせ、より多くの缶詰缶を開けることで彼らのパーティーがより盛り上がったのも確かだった。
ブランドというマジックーーーこれこそがサンクトモロビッチ存続の核心。 それ故にサンクトモロビッチは “自由都市サンクトモロビッチ” というブランドを守ることを絶対的最優先事項とし、この港を訪れる者すべてに安全かつ自由なTAXフリーのビジネスを保障していた。
そしてトラブルを起こせば即刻入港禁止、もしサンクトモロビッチを攻撃しようものなら全宇宙から極悪人のレッテルを貼られ色々な界隈から賞金を掛けられ外宇宙を彷徨う以外になった。 いわば裏ビジネスの人間や高級官僚、政治家達にとってはいつでもトラブルフリーで取引が出来、しかもTAXフリーの純粋に安全な治外法権エリア。 海賊達にとっても略奪品の安全な取引場所、そして長期航海の後に立ち寄る実家のような場所でもあった。 また自由も不自由をも超えた外宇宙を冒険する者達にとっては心の底からリラックス出来る本当の意味での桃源郷ともいえる星でもあった。
そんな港町サンクトモロビッチ。 誰もが自身のコストを考えた時、この自由都市を現状のまま静かに存続させようと思うのは当然だろうし、人々の夢想、妄想が止まらない限り自由都市サンクトモロビッチは存続し続けるだろうーーーそして、そんな場所は必ず何処かに存在した。