「キャプテン、特別キャンペーンでも就職希望者がゼロです」
「やはりそうか、予想はしていたが・・・、ところでキャビックには話してくれたか?」
「キャプテンを裏切るようなことは絶対にない、と言ってました」
「キャビックらしいな。 ありがとう、航海長。 彼も歳だし本当は船を降りて、孫達と遊ぶのを楽しみにしていたのだろうなぁ。 しかし、キャビックに船を降りられると・・・」
「はい、私もそう思います」
就職希望者が全くいない海賊船としては、歳で船を降りる者が出ると、航海そのものが難しくなるーーーこれはまさに、海賊船の死活問題である。
”海賊船” その響きには冒険、ロマン、夢があった・・・十数年前までは。 しかし今では、海賊船と聞いて世間が、子供達が思うのは ” 悪行、悪徳、そして危険、キツイ、汚い” の 2A+3Kワードでしかなかった。
確かに、大昔の大航海時代にはプライベーターの小型宇宙船や、商業大型宇宙船を襲ったりのやりたい放題だったが、今の海賊船は昔の海賊船とはまったくの別物だった。 船は海賊船と呼ばれてはいるが、その仕事は大航海時代に発見された貴重な惑星の調査、保守管理がメインとなっている。 特殊な生態系、特異な文化を維持する生命体の惑星など、貴重な研究標本の宝島となっている惑星のガーディアン的な役割を担っていた。
特異な惑星、いわば宝島が点在する辺境の空間、未開の空間への長期航海は今でも多くの危険を伴い、汗まみれのキツイ作業が沢山あるのも確かだ。 だからこその冒険であり、未知の世界を多少なりとも覗き込めるロマンであり、見果てぬ夢へと少しでも近づく夢もある。 そして船員達は自分達の船が海賊船と呼ばれることに誇りを持ち、熱い思いを込めて自分達の船を海賊船と呼んでいた。
だが、その海賊船から ”冒険、ロマン、夢” という言葉を奪い、2A+3Kワードの代表職業にしてしまったのが、十数年前に放送されたテレビ番組だった。
”検証、職業の真実! 隠された仕事の裏側、海賊船の闇” これが、その番組だ。 番組は辺境空間に調査船を派遣している省庁の上級官僚たちの利権や汚職。 それに加え大航海時代の海賊達の略奪、野蛮行為をからめて海賊船をスキャンダラスに取り上げた内容だった。
これに飛び付いたのが、無味無臭無菌、品行方正従順、安全安心安泰を最優先とする子供を育てようとする親達、そんな社会風潮に乗ったコメンテーター、評論家達だった。 そんな彼らに煽られた番組は高視聴率を叩き出し、続編、続続編、ついには極悪海賊船のシリーズドラマまで作られた。 そしてコメンテーター、評論家、親達は毎日毎晩鼻歌子守唄代わりに、海賊船は悪徳極悪職業の代表だと非難し、”冒険、ロマン、夢” は現実世界には存在せず、御伽噺やファンタジーの世界だと叫んだ。
結果は当然、子供達の海賊船に対するイメージは180度変わってしまった。 しかも世間では、”冒険、ロマン、夢” は社会の落伍者が言い訳として語る言葉だと。 そして都会の小綺麗な部屋で慎ましく暮らす善良な納税者こそがスマートな生き方であり、人生の成句者だと政府主導で大々的に宣伝されていた。
「キャプテン、私達の呼び名を変えた方が良いのでは」
「呼び名を変える?」
「はい、私達が海賊船と呼ばれているようでは、絶対に就職希望者など現れません。 余りにもイメージが悪すぎます。 もう完全に人生の敗残者、落伍者が行き着く先、最悪劣悪最低職業みたいになっています」
「確かになぁ・・・、で、航海長、何か良いアイデアでも?」
「例えば、”安全安心楽々観光旅行の公務員、絶対安全安心高額年金船” これなら必ず就職希望者が現れます」
「しかしそれでは、辺境空間調査船乗りの誇りや、冒険者への憧れ、そしてロマンや夢が跡形もなく消えて行くような・・・、でも、そんな時代なのかなぁ」
「キャプテン、このままでは、この調査船自体が廃船になりかねません」
「しかし、どんな人間が応募してくるやら」
「大丈夫ですよ、キャプテン。 何百年もの大航海時代を経験してきた私達です。 そう簡単に冒険やロマン、夢を忘れる訳がありません。 誰であろうと、体が、DNAが覚えています。 ”海賊船” をアパレルブランドと勘違いして就職してしまった、女の私でさえそうでしたから」
「確かにそうだったなぁ、航海長。 あの時は、本当に驚いたよ」