冒険者達のカケラ

 「ヤチェック、なんとかなりそうか?」

 「思った以上に、難しいかと・・・」

 「やはり難しいか」

 「でもキャプテン、可能性はあります」

 NA-1593 の番号しか付けられていない、辺境惑星。 その惑星の周回軌道上、通称ルトランと呼ばれる探査船のオブザベーションモニターに広がるのは、限りない星の灯火。 二百年ほど前には資源開発の可能性が見込まれ、多くの小型宇宙船が散らばった、この空間域。 公式には調査船となってはいるが、その多くはゴールドラッシュを夢見た、プライベーター達のボロ船だった。 そしてそのほとんが、この空間域の漆黒の空洞に消え、再び戻って来ることはなかった。

 「しかし本当に、数百ものプライベーターがこの空間域に消えていったのですか、キャプテン?」

 「ああ、それは確かだ。 NECEの公式の記録として残っている」

 この空間域が注目され始めた当初は、まだこの空間域の特殊性は認識されていなかった。 しかしプライベーターの消息不明が多数報告されるなか、NECEはこの空間域に時空の歪み、亀裂が存在する可能性を公表した。 それと同時に、この空間域への進入、航海を禁止したが、それでも多くのプライベーター達が漆黒の闇に消えていった。 それは “消えた船、歪んだ時空” がプライベーター達に広がっていた伝承、”隠されたゴールドラッシュ” を連想させたからだった。

 その伝承も二百年という時間の流れのなかで忘れ去られ、いつしかこの空間域は ”忘却の空洞” と呼ばれ、誰もが忌み嫌い避けるようになっていった。 しかし最近、新しい時空航法の基礎研究のために NCEC がルトランを派遣していた。

 「キャプテン、いくつかの断片が・・・」

 そしてある日、 NA-1593の周回軌道上でデーター収集をしていたルトランは、二百年前に消えていったプライベーター達の通信電波の断片が、あたかも淀みに漂う泡沫のように、歪んだ時空に漂っているのことを発見した。 それはほとんど偶然の出来事だった。

 「素晴らしいぞ、ヤチェック」

 「ある程度までなら、復元可能です。 おそらくこれは、彼のラストメッセージと思われます」

 「ありがとう、ヤチェック。 そしてこれから話すことは、この探査船の全乗員に聞いて欲しい。 プライベーター達のメッセージ回収は、確かに我々の業務外である。 しかし私個人としては、同じ宇宙船乗りとして・・・、忘れ去られた名もなき彼ら、不幸にして漆黒の闇に飲み込まれた彼ら、時には海賊呼ばわりされ蔑まれた彼らプライベーター達だが、しかし私は、彼らは紛れもなく恐れを乗り越えた冒険者達だったと。 そして彼ら、偉大な冒険者達の生の声を少しでも拾い上げ、彼らが漆黒の闇に存在したことを、本当に実在したことを後世に伝えたい。 これが漆黒の闇へと消えていった偉大な冒険者達に対する敬意だと、私は思っている。 加えて、このルトランの全乗員の協力に、改めて心から感謝する」

 「キャプテン、メッセージの再生が可能です」

 「再生してくれ、ヤチェック」

 「・・・空間が歪んでいる・・・俺の船は、時空の亀裂に捕まったようだ・・・脱出は・・・色々と試したが、不可能だろう・・・たぶんこれが、最後の通信になるだろう・・・誰かが、この通信を聞いていてくれたらと思う・・・そして俺が今、伝えたいことは・・・俺の人生は、メッチャ面白かった、楽しかった、最高だったということだ・・・こんな風に、笑っていられるのは、たぶん・・・俺は今、恐怖からも、欲望からも解放されているからだろう・・・おそらく、それは・・・今の俺が過去からも、そして未来からも自由になれたと、感じているからなのか・・・これが、時空の歪みの・・・」

 

 

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