宇宙船に故障が発生、緊急避難として一番近い星に着陸することにした。 この星の評判が余り良くないことを知ってはいるが、メイン動力システムのトラブルなので仕方がない。 外宇宙レスキュー組合のストが噂になっている今、漂流船になることだけは絶対に避けたい。 スト決行中に外宇宙で漂流船になろうものならそれこそ幽霊船になりかねない。 とりあえずは近場に着陸して保険会社のレスキューサービスを待つのが常識というものだ。
プライベーターとして外宇宙を独りで飛び回るのは面白い。 しかし無謀な冒険をするのは百年前の話だと思っている。 今の時代、冒険を冒険として楽しむにはメシ代を削ってでも民間の保険会社と契約するのが大人の常識だろう。 もっとも公的機関のレスキュー組合がストが頻発し機能不全を起こすような組織でなければ必要ないのだが・・・噂では、レスキュー組合のストを保険会社が支援しているとか。 まあこの辺りの事情は数百年前から変わっていないようだ。
酔った勢いとはいえ、クルコフ空域を強行突破しようとしたのは無謀だった。 案の定何個かのデブリが船体に衝突し油圧ラインを損傷した。 保険会社の話ではそんなバカも結構多いらしい。 レスキュー組合のストも危険空域を強行突破しようとして、航行不能になったバカどもの救助に危険手当の割り増しを要求してのことらしい。 まあとりあえずは保険会社と連絡が付いた今、気になるのは事故で発生した損失を保険がどこまでカバーしてくれるか・・・とにかく緊急避難として着陸する星の評判が悪かろうが、バカの自業自得として諦めるしかない。 幸いにも保険会社がこの星の基礎資料と最近の情報を送ってくれているので何んとかなるだろう。
資料によれば、この星にはP型種とF型種とに分類される二種類の知的生物が住んでいるらしい。 このP型種とF型種はその容姿、生活形態などに違いがあり、特に思考体系が根本的に違うようでお互いの交流はほとんど無いという。 P型種にそれほどの問題はないようだがF型種には多少問題があり、その結果としてこの星の評判が落ちている。 以前は両者の間で大きな問題はなかったが、どうも最近その関係が不安定になり研究者も先が読めないらしい。
この星の最高知的生物を自負しているF型種だが、どうもP型種の正確な情報を持っていないらし。 勝手にP型種を鳥類の変種と考え、自分達よりも遥かに下等な生物と思い込んでいるのが問題の根本にあるようだ。 F型種は自分達を絶対的支配者と考え、勝手し放題。 最近では自分達の間でのテリトリー争いに飽き足らず、P型種の生存までをも脅かしているのが現状らしい。
これまでP型種はF型種に自分達の能力を隠してきたが、今の状況に何らかの対応が必要と考え始めているようだ。 特にP型種の若い世代には強い危機感があり、新たな行動を起こしている者もいるようだ。
知性、その精神性において劣るが大量の究極破壊兵器を持つF型種。 しかも自分とは異質なものを排除する傾向があり、加えて既得テリトリーへの固執が強く自身を最高知的生物と思い込んでいるF型種。 もしP型種が彼らを超える知的生物と知った時、プライドだけがやたらと高いF型種がP型種の絶滅を考えるのは容易に想像できる。 そしてその凶暴さは、F型種の歴史を見ると全宇宙最悪とも言えるだろう。 そんなこともありF型種の旧世代は新世代の動きに不安を感じている者も多く、P型種全体としての動きは定まっていないようだ。
最近では保険会社が付近を航行する貨物船の保険料改訂、紛争地第三種指定に移行するのではないかとの話も聞く。 どうせ保険会社のレッカーサービスが到着するまで暇を持て余す俺だ。 暇つぶしに多少なりとも情報を収集し、今回発生した損出の保険割合を保険会社と交渉する際のカードにするのはプライバーターのサバイバル術として当然だ。 幸いにも保険会社から送られたきた資料にP型種の基本会話集が付いていたのでP型種に接触し、気まぐれに少し遊んでみようかと。