バイト初日

 「あれ、新人さん?」

 「はい、今日からバイトで入ったカサゴといいます。 よろしくお願いします」

 「俺、スズキっていうんだ」

 「スズキさんですか、ご指導よろしくお願いします」

 「カサゴ君さあ、そんな気を使うことないよ。 気楽に行こうや」

            *

 「ママ、今日はお魚釣りができるんだねぇ」

 「そうよ、今日はたくさんお魚釣ろうね」

 「ぼく初めてのお魚釣りなんだけど、釣れるかなぁ」

 「大丈夫よ、ここにはお魚がたくさんいるのよ」

            *

 「スズキさん、お客さんが来たみたいですね」

 「母親と小さい子供か。 最近このパターンが増えたなあ・・・、以前は年寄りとサラリーマンがほとんどだったけど」

 「スズキさん、この仕事長いんですか?」

 「そろそろ十年近くか、とにかく気楽な仕事なんでね」

            *

 「ママ、ここで海のお魚が釣れるんだね。 釣ったお魚食べたいなぁ」

 「ここは釣り堀なの、だからお魚が釣れても池に返してあげないといけないのよ。 帰りにお魚屋さんに寄って行こうか」

 「釣れたお魚と同じお魚がいるといいなぁ」

 「じゃあ、夕飯んはお魚に決まりね」

            *

 「スズキさん、お客さんに挨拶しなくていいんですか?」

 「そういう所もあるけど、ここはそんなに気を使わなくてもいいんだ。 あまり気を使うと事故るよ」

 「へぇ〜、そうなんですか」

 「あのお母さんなんか、ちょっとヤバそうな気がするけど・・・」

 「でも、シカトするのも不味いんじゃないんですか」

 「もし挨拶したいのなら、息子の方を進めるよ」

            *

 「わっ! ママ、お魚が釣れた。 これ何ていうお魚?」

 「これはカサゴっていうのよ。 なんか美味しそうね、持って帰っちゃおうか」

 「ママ、だめだよ! お魚がかわいそうだよ」

 「そうねえ、タカちゃんがそういうなら。 帰りにお魚屋さんでカサゴ買おうか」

            *

 「マジに危なかったですよ!」

 「そうだろう、人は見かけによらんものさ。 特に女は・・・」

 「ほんと、スズキさんの感があたりましたよ。 マジにバイト初日に事故るとこでした」

 「前のバイトなんかギャルに釣られて、そのまま干物にされちまったよ」

 「えっ、マジですか!」

 

 

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