私の住んでいる大きな家はコミューンと呼ばれていて、七人の大人と五人の子供が一緒に住んでいるの。 その家は静かな田舎町にあって、とても楽しい毎日よ。
素敵な所だね
そうよ、みんな素敵な人達で、家の中はいつも笑い声がいっぱいなの。 そして大人達はいろんな事を知っていて、私が知りたいと思ったことを何でも教えてくれるの。
どんな事?
世界はとても広くて、色々な国があって色んな人達が住んでいて・・・、そう、大きな大きな海もあるのよ。 夜空の沢山の星はどのくらい遠いとか、大昔にいた動物はとっても大きかったとか、それからお花がなんであんなに綺麗なのかもよ。
色々はことを教えてくれるんだね。
でも私が一番知りたいと思ったことは、聞かなかったわ。
どんなこと?
それは、家の裏口のドアの開け方よ。 私は大人達が裏口のドアの開け方を知らないのを知ってたの。 だから聞かなかったの。
裏口のドア?
表のドアはいつも開いているの。 そして表の通りは窓にお花を飾った綺麗な家が並んでいて、通りを歩く人はみんな、いつも笑顔でお喋りをして幸せそうに歩いているの。 それ以外のことを、私は見たことがないわ。 でも裏口の窓から見える景色は少し違ってるの。 そこには暗くて深い森があるのよ。 そして一本の細い道が、その深い森の奥へと続いているの。 いつも裏口の横にある窓から外を眺めて、森の奥には何があるのかを考えていたわ、毎日よ。 大人達はドアの開け方を聞かない私を、とても素直で素晴らしい子供だって褒めてくれるわ。
でも本当は私、裏口のドアの開け方を知ってるのよ。
へぇ〜、そうなんだ
ある日、大人達が一人の男の人を家に連れて来たの。 その人はとても遠い世界、大人達の誰も行ったことのない世界から来た人よ。 彼はフルートを吹きながら沢山の遠い世界を旅行してきた人だったの。 そして彼は私達の前でフルートを吹いてくれたわ。 大人達は彼のフルートはとても素晴らしいと大きな拍手をしていたわ。 私も、心からそう思った。 そして私は、大人達が気づかなかった大切なことに気づいたの。 彼のフルートは彼の言葉だったのよ。 彼はフルートで私達に話しかけていたのよ・・・裏口のドアの開け方を。 ”ドアのノブに手をかけて、そっと押してごらん。 私に必要なのは、ほんの少しの好奇心だけ” そう言ってたわ。 私はいつか、あのドアを開けて森の奥に行ってみるの、ホントよ。