「聞け、銀次。 俺は、世界征服をする!」
いつもの居酒屋で呑んでいた和菓子屋の月光堂がいきなり立ち上がり叫んだ。 酔っても冗談のひとつも言わない生真面目一本の月光堂だが、今日は悪酔でもしたか。
「世界征服だって! 今時そんなもんは流行らないぜ、月光堂」
「時代遅れ? そんなもん俺には関係ない。 俺は江戸時代から続く和菓子屋月光堂の六代目だ」
「だからその時代錯誤の和菓子屋の六代目が、なんで世界征服なんだ」
「世界征服を可能にする装置を発明したから、世界征服をする」
「スジは通ってるが・・・」
「和菓子屋だろうが、スジを通すのが江戸っ子だ」
「なに! テメエのどこがスジを通す江戸っ子だ。 それならタコ焼き饅頭なんか作るな、売るな月光堂!」
世界征服の話がなんとも訳のわからない方向に。 でもまあ酔っぱらいの話はこんなものか。
「おい、大工の銀次郎! 老舗月光堂の看板商品、タコ焼き饅頭にケチをつけようってのか」
「おい、月光堂! 江戸っ子がタコ焼き饅頭だ、そんなもん食えるか、笑わせんじゃねえ!」
「おいこら、銀次郎! 悔しかったら世界征服装置を作ってみろ。 そんなもんも作れなくて、なにが江戸の大工だ。 タコのケツからアンコが吹くわ!」
銀次郎と月光堂はいつもの大喧嘩。 おかげで月光堂の世界征服の話はうやむやに、そして世界征服装置は居酒屋のオヤジが酒に混ぜ物をしていたせいになった。 まあそれが妥当な落とし所だと居酒屋に居合わせたご近所さんは納得した。 しかし世界征服装置の話はどうやら本当だったらしい。 さすがは生真面目一本月光堂六代目、混ぜ物入りの酒を飲んでも冗談などは言わないとご近所さんは感心するが、さて月光堂の世界征服の目的が気になる。
「源さん、月光堂は本気なんですかい?」
「どうもそうらしい、銀次」
「で、その世界征服装置ってどんな機械なんで?」
「どんな機械と聞かれてもなぁ・・・」
「たとえばタコ焼き器のようなとか、綿飴の機械みたいなとか」
「しいていえば、世界征服装置みたいな機械か・・・」
「・・・はぁ?」
気付いた時には畳屋の源さんの頭を一発張っていた銀次郎。
「銀次郎、テメエ目上に何すんだ! 痛えじゃねえか。 世界征服装置なんだから、世界征服装置みたいな機械とか言いようがねえだろうが!」
「確かに。 悪かった源さん、このとおり謝る」
「分かりゃいい、銀次」
「なぁ源さん、俺は月光堂の世界征服にケチを付ける気はねえ。 俺は江戸っ子だ、そんな肝っ玉の小せえ男じゃねえ。 それに月光堂が世界征服すりゃぁ、ヤツの律儀で生真面目な性格からして世界は信じられねえぐれえ平和になるだろう・・・、だがそれからが問題だ」
「世界平和、いいじゃねえか。 そいつの何が問題だってんでえ」
「源さん、月光堂の目的はマジに何だと思う?」
「だから世界平和じゃねえのか?」
「ヤツは生粋の堅物和菓子屋六代目でっせ、そんなテレビドラマみてえことは考えねえ」
「じゃぁ何で、餡之介は世界征服をしたがる」
「そいつが問題なんで、源さん。 ヤツが店先に掲げている、あの額縁」
「餡之介が? あっ、そいつはマズい! 餡之介の世界征服を絶対に止めろ、銀次!」
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残念ですが、この続きは次回に!