えっ、パンク系路上パホーマンスだって?

 オランダの冬は寒い。 凍った運河でスケート大会が催されたり、バスキングではフルートの先端から氷柱が下がるほどには寒い。 

 俺が住んでいるスクワットハウスには暖房が無いので家の中でも寒い。 余りにも寒い夜には家具や壁板をバラしてウッドストーブで暖を取るがそれにも限度はあるーーー家に穴が空いては最悪、そして寒空の下で新たに住める家を探すのは最悪以下。 まあ思うに、バスキングで健康的に体と心を温め、それから馴染みのカフェでビールとスモークで友人達とグダグダと閉店まで過ごすのが冬のサバイバルとしてベストだろう。

 そんなサバイバルの日々を過ごしていたある日、驚愕の方法で体を温める男に出会った。

 その日は特に寒かった。 俺は街のセンターを少し外れ、スポーツ用品店の大きなショーウインドの横に立ちバスキング。 

 悪くはない。 空の青さと空気の冷たさがフルートの音色を俺好みの少しディストーションがかかったソリッドなトーンに変えてくれる。 そしてフルートの先端の氷柱も大きく育ち、その景色が通行人の心情をほど良く刺激するのかチップの入りも順調だ。 そんな時はカップに投げ込まれるコインが奏でる響きで大いに心が温まり、また容易に演奏にのめり込め体も温まり寒さを忘れさせてくれる。

 通りを行き交う人々も俺のプレーを楽しんでいるようだ。 普段にも増して女の子が笑顔でチップを小さな黄色いカップに落としていく。 そして俺のフルートも彼女達の優しさに応えて街の冷たい空気を切り裂きながら路上を舞う。

 いい感じだ!

 立ち止まって俺のフルート聴いていた若い男がゆっくりと前に進んできた。 俺が男に視線を向けると笑顔で挨拶を返してきた。 男の手にはレンガ・・・俺が目で、そのレンガはと問うと男は再び軽く笑顔を返しレンガをショーウインドに叩きつけた。

 FUCK OFF !

 ショーウインドが大音響と共に崩れた。

 それを見た全員が固まった。 そして男は天使の笑顔で親指を青い空へと突き上げ全力疾走、視界の外へと消えた。

 わっ! おっ、俺の立場は?

 もし俺が直ぐにこの場を離れたら、共犯とも思われかねない。 かといってこのままバスキングを続けるわけにもいかない。 飛び出してきたショップキーパーが大惨事の片付けを始めたのを横目に見ながら、俺も撤収準備。 ショップキーパーに何か聞かれるかと思ったが、何も聞かれないので軽く挨拶をしその場を去ることにした。 このスポットは他のバスカーが立つこともなく、俺が気に入っていた場所だが二度とこの場所でプレーすることはないだろう・・・やはり何となく気が引ける。

 何時ものカフェに戻ると親しい友人が教えてくれたのだが、ショーウインド破壊がパンク系路上パホーマンスとし存在するらしい。 彼も一度やったことがあるとか・・・しかし彼はその場でポリスを待って留置所入りしたそうな。

 それにしてもいくら寒いとはいえ、勝手に俺のフルートを前座にショーウインド破壊と全力疾走のパホーマンスは止めてくれ。 もし全力疾走で体を温めたいのなら、ぜひ俺を巻き込まずに一人でやってくれ・・・俺は止めないし。

 

 

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