「この列車は止らないぜ」
「ああ、分かってる」
「なら乗ってみな」
俺がこの列車に興味を持っていることを知られていたのか、乗ってみないかと誘われたのだが・・・、しかしこの列車の行き先を俺は知らない。 だが列車に乗らなければその行き先を知ることも、ましてや行き先で出会うであろう景色を眺めるもとも出来ない。
「この列車を見つけるのに随分と手間取ったよ」
「注意深く時刻表をチェックしていないと見つからないからな」
「もっとも前に一度、発車ベル直前に降りたことがある」
「時にはその選択が正しい時もあるし、まあ、行き先が分からない列車に乗るのは怖いものさ」
「ああ、あの時は・・・」
「でも乗りたいんだろう」
「乗ってみたい」
列車が着いた先にはどんな景色が広がっているのか、その景色が見たい。 そしてその向こう、もっと遠くの景色に出会いたい・・・だから俺は歩き続ける。
「でもアンタが望む行き先とは限らないぜ」
「ああ、それも分かっているさ」
それは恐怖・・・ミットナイトエキスプレスが心を過ぎる。
だが俺の好奇心、青い空に浮かぶ白い山並みの遥か向こうに広がる世界への好奇心が俺の背中を押し続ける。 そしてそれは遊び、だから俺の心に忍び込もうとする恐怖を忘れられる。