1980年代初めの、南スーダンとケニヤの国境付近の話です。
雨季の終わり、乾季への変わり目、まだ天気は安定せず道はいたる所で泥沼状態。 そんな時期に南スーダン、ジュバのトラックターミナルで見つけたケニヤに向かうトラック。 乗員はオーナードライバーと彼のビジネスパートナー、メカニックのソマリア人三人、そして若いケニヤ人の料理雑用担当。 ケニヤから南スーダン、ジュバに砂糖、コメなどを運んだ帰りの便。 ジュバから運ぶものもなく、とりあえず乗客を探していた。
ジュバからケニヤ、エルドレッドまではおよそ千数百キロの道乗り。 道路状況の悪さと国境通過の煩雑さで、およそ五日ほどの予定。 特にスーダン側には食堂、宿などはまったく無く、運賃は食費込そして寝るのはトラック横での野宿。 まあ、長距離移動はトラックの荷台に乗り、野宿というのはアフリカ旅行の定番スタイル、もしくは徒歩か。
泥と巨大水溜りに満ちた悪路の行程、そんな道だからのアトラクション。 泥沼にハマれば脱出に一時間、二時間。 巨大泥沼に突っ込んだトラックが道を塞いでいれば三時間、四時間の待ち時間。 暇を持て余してトラックの荷台でのチャイ休憩に、気まぐれランチ。 夕方ともなれば、料理人の焚き火から始まり、みんなで大きな鍋を囲んでのローカルフードの食事会。 一日以上待たされるこたが確実な国境では、生きたヤギを買って、解体ショーから始まるヤギ鍋パーティー。 寝床確保には、まずは周りの石をひっくり返しての、サソリとヘビのチェックから。 絶対に退屈することのない、アフリカでの長距離トラック旅行。
そんなアトラクション満載の旅行も、国境を越えケニヤに入るとガラリと変わる。 さすがはアフリカで上位を争う金持ち大国ケニヤ。 何といっても、道路事情がまったく違う。 ダート道路であっても穴がない、池がない、橋があるーーーアスファルト舗装された道もある。 泥沼にハマることなど全くなく、道沿いの集落でチャイ休憩、ランチ休憩をしながらの快適ドライブ。
気分は爽快、快走するトラックの横を走るダチョウを眺め、完全に観光旅行気分を楽しむ余裕の旅路。 そんな時でも何かが起こるのが、アフリカ旅行。 ひときわ目に付く異質な人が・・・まったくの素っ裸にやりを槍を一本だけ持った男が、時々道端に立っている。
その雰囲気は凛々しく、清々しく、まさに孤高の戦士。 さすがは観光大国ケニヤ、こんな所にまで観光アトラクションかと思ったが・・・
トラックの乗員達がマジに警告するには、絶対にカメラを向けるなと。 向けた瞬間に、槍が飛んでくる。 しかも彼らは命とプライドにかけて、絶対に的を外さないーーーライオンも彼らには近づかないとか。 そして彼らは時々、山賊にも変身するそうな。
話では、トラックが野営している場所に、五、六人で素っ裸に、槍ではなく機関銃を抱えて闇の中から突然現れるとか。 そんな時のは慌てず騒がず、人数分のTシャツを彼らに渡すとのこと。 彼らはTシャツを受け取ると、静かに闇の中に消えていくとか。 そしてそのTシャツは近くの市場で、タバコに交換されるそうです。 まあ、私の個人的な意見としても、彼らにはTシャツを着てもらいたくは無いです・・・絶対に、似合うとは思わない。
私達が走った二週間後に、同じ道を走ったトラックの一台が、彼らにTシャツをプレゼントした話をナイロビで聞きました。 この道は、そんなスペシャルアトラクションまでもが楽しめる、超絶お得な、超スーパーなアフリカ観光道路。