夏はバカンス、出稼ぎシーズン Prt. 1

 夏といえばバカンス、そして出稼ぎシーズン。 クソ暑いギリシャから、涼しい北ヨーロッパへのバスキング出稼ぎ旅行。 普段はスイス、リヒテンシュタイン、オーストリーをメインに、たまにはオランダ、イタリアへと。 しかし今年の夏は、少し気分を変えてデンマーク、コペンハーゲンに行ってみようかとーーーデンマークの女の子は意外と小柄で、メッチャ可愛いとの噂が。 

 ギリシャからデンマークへは結構な距離、直線距離にしても2,000キロ以上になる。 さすがに陸路は遠いということで、アテネ、ワルシャワ経由コペンハーゲン、ポーリッシュエアーの格安チケットを買う。 

 飛び出しは順調・・・と言うか、アテネからワルシャワ空港まではまったく覚えていないので、順調だったはず。 覚えているのは、ワルシャワ空港でのトランジットから。

 当時はまだソビエト崩壊前。 共産圏バリバリのポーランド、トランジットのセキュリティーチェックさえ非常に厳しく、手荷物のX線検査で映ったフルートに現場は緊張、キュリティーが飛んできた。 私は銃を持ったセキュリーに囲まれ、フルートのケースを開けることになる。 開いたケースの中を見て、さすがはポーランド人、叫んだ言葉が「ブラボー!」 その後セキュリティーが、私が原因で遅れていたコペンハーゲン行き、ポーリッシュエアーの搭乗ドアまで、VIP扱いで送ってくれた。 

 ちょっとしたアクシデント。 そう、小さなアクシデント。 これから始まる楽しいバカンス、出稼ぎバスキングに向けて、ギリシャでの怠惰な生活からの目覚ましには最高かと思ったが・・・しかしこれは、オードブル。 これから始まるビッグイベントへの、グリーンシグナルの点灯でしかなかった。

 飛行機は遅れを取り戻し、定刻通りコペンハーゲンに着陸。 

 私はイミグレーションに、笑顔と一緒にパスポートを提出。 何時ものように、スタンプだらけのパスポートをめくる入国審査官。 そして何時ものように入国スタンプが押されパスポートを受け取り、笑顔でゲートを通過するはずだったが・・・

 「貴方は入国できません」 

 「えっ? マジで!」

 「貴方は、デンマークには入国できません」

 「なぜ?」

 「貴方を、ワルシャワに送り返します、はい」 

 入国審査官は笑顔で、さようならと手を振っている。 

 粘ってはみたが、入国拒否の理由は教えてもらえず、最終的には乗ってきた飛行機へ笑顔の強制連行。

 「あら、また貴方だったのね」 

 ポーリッシュエアーのスチワーデスが、笑顔で私を迎えてくれる。 そして、またしても私が原因で遅れた飛行機は、一路ワルシャワへと。 

 そんな訳で、再びのワルシャワ・エアポート・・・そして、更なるトラブルへ。

 ワルシャワ・エアポートで私を待っていたのが、ポーリッシュエアーの職員。 挨拶もそこそこに、渡されたのが請求書。 強制的に乗せられた、コペンハーゲンからワルシャワまでの飛行機代だった。 自分の意思で乗ったのであれば、払うのは当然。 しかしコペンハーゲンからワルシャワは、自分の意思に反して強制的に乗せられたもの、私が払う理由が見つからない。 もし誰かが払うとすれば、私の入国を拒否したコペンハーゲンのイミグレーションか。 あるいは彼らから私のワルシャワ送還を請け負った、ポーリッシュエアーか。 私に払わせるのは敗者に足蹴り、仁を欠く強者の奢り。

 断固拒否!

 一時間以上に及んだ私とポーリッシュエアーとの話し合いは、まったくの平行線。 私と話した職員は、事務仕事として請求書を渡しに来ただけの事務員。 それでも相手はウオッカ大好きポーランド人、会話の中で何らかの可能性、もしくは強行突破の糸口でもと粘った。 しかしポーランド人とは相容れないはずの権威主義的、階級主義的組織の壁は思った以上に厚かったーーーまあ、当然だろう。 

 その後数回、入れ替わり違う人間が説得に現れたが、全くの平行線。 そして最終的に彼らは、一人の日本人を連れていた。 

 「私は、日本大使館から来たのですが、払ってください」

 「私のフォルトではないので、払いたくありません」

 「払ってください」

 「払う金はありません」

 「払ってください、お金は貸しませんけど」

 「貸してはくれないんですか?」

 「貸しません。 で、もし払わなかったら、警察に引き渡されます」

 「助けてくれないんですか?」

 「残念ですが、助けません」

 やはり日本大使館が大好きな権威主義、階級主義的官僚組織の壁は予想通り、共産ポーランド以上に厚かった。

 とにかく警察沙汰は困る。 見つかってはマズイ物を隠し持っているので、メチャメチャ困る。 ガチ共産圏のポーランドでなくても、身体検査で絶対にバレる。 バレたら二十年以上はポーランドから出られない。 絶対に見つかってはマズイ物を持っているという、私自身の弱みで、私の負け!

 「払います」

 「では、払ってもらえるということで、私は帰ります」

 「はあ、どうも、お疲れ様です」 

 とにかく警察沙汰は困る。 見つかってはマズイ物を隠し持っているので、メチャメチャ困る。 ガチ共産圏のポーランドでなくても、徹底的な身体検査で絶対バレる。 バレたら二十年以上はポーランドから出られない。 絶対に見つかってはマズイ物を持っているという、私自身の弱みで、私の負け!

 「払います」

 「では、払ってもらえるということで、私は帰ります」

 「はあ、どうも、お疲れ様です」 

 五時間以上も揉めた末に、私が飛行機代を持つことでポーリッシュエアーとのトラブルは解決。 そして次なる問題は、私がポーランドのビザを持っていないということで、どこかに出国しなくてはならないが、すでに夕方六時。 

 さて、どこへ? 遠くには飛びたくないーーー飛行機代が高くつく。 

 しかし私は超ラッキー、滅茶苦茶ラッキー、神は私を見捨てなかった。 七時にポーリッシュエアーのオーストリア、ウイーン行きがあった。

 「また来なよ」と、笑顔の空港職員。

 「もしかしたらね」と、笑顔の私。

 さて、オーストリア入国は? 

 閑散としたウイーンエアポート。 さすがは黄昏オーストリア、来るものは拒まず、即決スタンプーーー入国可。

 グッジョブ、オーストリアの入国審査官!

 

 

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