ロッテルダム、アウデ・ビネン通りのカフェ。 いつものカウンター席に座り、通りを眺めながら紅茶にジョイント・・・それはバスキング前、朝のルーティン。 一年に300日雨が降るといわれるオランダ、しかし今日は朝から青空が広がっている。 青空は嬉しいが、こんな日には天気につられてバスカーが街に溢れる。 まあ、それはそれで知り合いのバスカーにも会えるし、街に変化があって楽しい。
バスキング中のジョイントを作り終え、壁の時計は11時。 カウンターにクオーターを残してカフェを出る。
メインとなるスポットでは、以前見かけたことのあるバスカーが歌っていた。 他の場所を目指すが、そこにも友人が立っていた。 少し立ち話をしてみたが、やはり普段よりもバスカーが出ているようだ。
狭いエリアに何人ものバスカーが立つと、どうしてもパイの奪い合いになる。 お互いのためにも、俺は他のエリアに移動することにした。 街の中心から少し離れたエリア。 人通りはそれほど多くはないが、他のバスカーが行かないこともあり、ある程度は稼げる。 こういう日もあるということで、バスキングスポットは市街のあちこちに見つけてある。
だが中心街を外れると、11時を少し回ったぐらいでは人通りはまばらだ。 まあ、そのお陰でコンクリートに囲まれた空間にはまだ朝の清々しい空気が残り、50年代の幾何学的都市デザインの意思をより鮮明に感じ取れる。 それはそれでフルートのフレーズに変化が現れて面白い。
流れる風、それはコンクリートの無機質な感触を含み・・・
いや、違う・・・
ここに流れる風は、この広場の風は・・・、確かに、何かが違う。
昔、ずいぶんと昔に感じたことのある、風。
そうだ、サバンナの風。 アフリカのサバンナを吹き抜ける風が、俺を通り過ぎて行くーーーそれはアフリカの大地、それはリズム。
ジャンベだ。 遠くで誰かがジャンべを叩いている。
そして俺の目の前にはサバンナが、青く広がる空の向こうには雲で頂きを隠したキリマンジャロ。 水平線まで続く草原、遠くにはジラフの首が並び、そしてバオバブ。 遠い昔に旅行したアフリカ、タンザニアで目に焼き付いたサバンナが広がっていた。
幻覚?
それは現実、ジャンベの音が作り出す現実。 それはアフリカのリズムが描き出す、実在。
俺は立ち止まり、耳を澄ます。 そして、俺の体を通り過ぎる乾いたアフリカの風を肌に感じながら、サバンナの風景を懐かしむ。 オランダ、ロッテルダムに現れたサバンナ。 それはジャンベのリズムがコンクリートに覆われた無機質な空間、グレーのキャンバスに描き出したアフリカの色彩そして、その鼓動。