夕方のモナスティラキ、パルテノンを仰ぎ見るローカルカフェ。 一杯のギリシャコーヒーで友人達と怠惰をむさぼる、ギリシャライフ。
私のバイクの話になったーーー50年代のBMW、R51にサイドカー。
いったい何人乗れるのか?
以前コルフ島で気まぐれに七人乗って走ったこともあり、カフェにいる六人なら全く問題ないだろうという話になる。 サイドカー付きだから乗れることは乗れるだろう、しかし普通に走れ流のかが疑問として上がった。
じゃ、走ってみよいうという話に、当然なる。
そして次は、どこを走るかという話になるのが、自然な流れ。
坂道を登ってこそ、普通に走れるということになる。 で、アテネ市街最標高地点のリカビトスの丘、そのヒルクライムがベストな場所として選ばれた・・・まあ、当然だろう。
リカビトスの丘は、モナスティラキからアテネ中心街を越えた向こう側。 そこには教会、レストラン、カフェなどがありアテネの夜景を楽しむメジャーな観光スポット・・・まあ、目的地としては最高だろう。 ということで、六人全員がサイドカー付きオールドBMWにしがみ付き、リカビトスの頂上を目指すことになった。
デンマーク、オーストリアの女の子二人、イタリア人の男と俺、そしてギリシャ人のカップルでの六人乗り。 まだ明るい時間帯、アテネのメインストリートを走り抜けるのは、無謀かと。 さすがのギリシャのポリスでも見逃してくれるかどうかは、疑問符が付く。 で、ルート選択が重要となる。
幸いにもギリシャ人のカップルがアテネ育ち。 当然のように、二人は市街の抜け道にメチャクチャ詳しかった。 二人が言うのは、メインストリートは横断するだけ。 あとは裏道を通って、リカビトスの丘の入り口まで行けるという。
そしてリカビトスの入り口まで行ってしまえば、その先ポリスに出会うことはない。
裏道ではバイクから人がこぼれ落ちないように、ゆっくりと走る。 だがメインストリートを横断する時は、ポリスの有無をしっかり確かめ、一気に突っ走る。 皆んなはバイクから落ちないようにと、お互いにしがみ付きながら大騒ぎ。
沿道からは、”ブラボー!” の掛け声と、”カミカゼ!” と叫ぶ声。
ギリシャでは、無謀なバイクライダーを ”カミカゼ” と呼んでいた。
そんな掛け声に押されてか、過積載オートバイは無事にリカビトスの丘も登りきった。 さすがは50年代のBMW、農耕馬のごとし。
リカビトスの丘からの夜景も楽しみ、もちろん下りも六人乗り。
直管マフラーにウインカーも無ければ、エンジンを回さねければヘッドライトも点灯しない、オールドBMW。 帰り道は皆んなも六人乗りに慣れ、直管マフラーの爆音を周りへの警報がわりに、闇に沈んだ裏道を快走する。
そして旧市街プラカに戻り、薄暗い裏通りを低速ゆえの無灯火忍者走行中に、いきなりポリスに出くわした。
ポリスが叫んだ。
ライトを点けろ!
俺はエンジンを回し、ヘッドライトを点灯させ、大爆音を残し六人乗りで走り去った。 そんな俺たちの後ろから追いかけてきたポリスの叫び声が、ブラボー!