ギリシャ香具師稼業、そしてポリス

 テキ屋は田舎回りをしてこそ、プロのテキ屋。 そう、ギリシャの地方都市、田舎町を回らずしてテキ屋を名乗るのも恥ずかしいーーーというわけで、ギリシャの田舎回りを。

 ギリシャといえばエーゲ海、碧い海に浮かぶ島でのバカンス。 観光客は当然のように島へと向かい、ギリシャ本土の内陸部など見向きもしない。 その結果として観光地化されていない内陸部にはトラディショナルな習慣が色濃く残りメッチャ面白い。

 五千年以上前から文明を持ちながらも、その時から人間があまり変わっていないと思われるギリシャ人。 そんな彼らのトラディショナルな生活習慣の核となるのがシエスタ。

 シエスタ、いわば昼寝はキッチリと法律で保護されたギリシャ国民の権利。 昼の二時から五時まではすべてが閉まり、街は完全にゴーストタウンと化す。 その代わりに夜の九時からは街全体が社交の場となり、街はカーニバル。

 近郊に住む病人以外の老若男女、赤子から爺婆までが頭の天辺から足の爪先まで着飾り街の社交場に集まる。 そこは小さな広場だったり港の散歩道だったり、あるいは二百メートルばかりの街のメインストリートだったりと、その町によって場所は変わるが集まることに変わりはない。 集まって何をするかといえば、只々歩き回り知り合いに挨拶をする。 歩き疲れたら立ち話にカフェでの無駄話。 これが毎日毎夜の生活習慣、街は毎夜十二時過ぎまでお祭り騒ぎのカーニバル。

 さあ、お祭りといえばテキ屋、テキ屋魂が・・・

 毎夜のいつもと変わらぬお祭りに、奇妙な東洋人がいきなり路上に広げるいかがわしい夜店。 そこにはギリシャ人が大好きな金色に輝くイヤリングにネックレスが並ぶ。 そしてそれらは夜の灯りで魔法にかけられ、黄金色に煌めき見る者の心を惑わせる・・・神秘の国から持ち込まれた、異邦人の夢。 それは何時もの日常に現れた、一夜だけの小さなサーカス小屋のごとき香辛料。

 シャイだが好奇心に溢れたギリシャ人。 初めは遠巻きにして観察しているが、サーカス小屋の魅惑に負けた一人が手を出せばそれに続くのはアバランチ。

 だがそんな御伽の国ギリシャの田舎だが、まったく問題がないわけでもない。 やはりネックになるのはポリス、その町の警察署長いわばシェリフですべてが決まる。 そこで売り上げは期待できないがシエスタ前にマーケットで店を広げてみる。 目的はポリスチェック、シェリフへのご機嫌うかがいのアドバルーンとなる。

 警察署から誰もが来なければ、この町のシェリフは奇妙な東洋人のテキ屋に無関心ということで問題なし。 夜のサーカス小屋のマジックに備えて、ランチにホテルでのシエスタ休憩でリラックスタイムということになる。

 もしシエリフが興味を持ったなら、私服の若いポリスが目立たないように派遣されてくる。 そしてその若い私服のポリスは丁重な口調で、彼自身は問題ないと思うのだが所長が君たちを呼んでいるので警察署まで来て欲しいと、商売の邪魔をしたことを弁解する。 その時はもちろん店をたたみ、彼と一緒に警察署へと向かう。

 警察署に着けばあとは大体お決まりのコース。 署長以下、署内の全員が集まっての取り調べが始まるわけだが・・・

 最初の質問は、金色に輝くイヤリングは金なのか・・・メッキです。

 次の質問は、すぐに錆びるのか・・・外国のメッキなので、すぐには錆びません。

 そして最後の質問として値段を聞いてくる。

 値段を聞いて、売ってくれと言い出すのがギリシャのポリス。 そこからは警察署内で署員相手の即売会が始まる。 そしてラストは、即売会の後にシェリフから判決が若いポリスから言い渡される。

 判決は隣町に行って商売をするということで、釈放所払い。 これで一件落着、私は警察署内での売り上げを持って隣町へのバスを待つ。

 

 

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