ウオールストリートの仕事場からRトレインで57丁目ステーション。 地上に上がると出口ではバスカーが寒さに震えながら指先を温めていた。 生き残ること、これがこの街ニューヨークに住む者たちに課せられた生き様。
一階、二階はブロードウェイで客を拾った女の子たちの仕事場となる8thアベニューのホテル。 週末には階段で客と女の子が退屈そうな顔で部屋の開くのを待つ、そんなホテルの六階でガールフレンドと暮らす私のニューヨーク生活。
朝の九時に部屋を出て、夜の十時に帰ってくる生活が月曜日から金曜日まで続く。 部屋の窓から見えるのは隣のビルの壁。 ホテルから地下鉄、そして地下鉄から地下の職場までの路上から見上げるのは空ではなく、それはビルとビルとの隙間。
誰もが何かに取り憑かれた、ジャンキー。 ジャンキーであることで生き残れると錯覚させる街、ニューヨーク。 そしてラジオからは毎日スティービー・ワンダーの “I just called to say I love you” が流れてくる。
何時も、誰もが何かに飢えアメリカンドリームは彼らのジャンクフード。 そう、ここはアメリカではなくニューヨーク。 彼らはスモーク、そしてクラックから今日を生き残るための滋養を得る。
今日を生き残る、例えその先に見えるのが排水溝に浮かんだ自分の姿であったとしても。 それは数十億年の時と共にDNAに刻まれた生き残ることへのミッション。 それは、ミンガス楽団の “Pithecanthropus Erectus”
何故に彼らはニューヨークで、今日を生き残る。 それはカオス・・・しかしそれはパワー、そしてリズムを生み出す。 そう、今日を生き残れば誰かが後ろに続く。 それは時間ーーーこれが、ニューヨークが彼らに与える凶器。 そして私はニューヨークを去る時に、この街からフルートを受け取った。