何もない、何もすることがない。 ただ青い空と碧い海・・・それがギリシャの小さな島でのバカンス。 出会う人といえば何もないことを楽しむ旅行者、そして数千年前から青い空と碧い海との暮らしが変わらない村人達。
あり余る時間、しかし何もない。
退屈?
あり余る時間に寄り添うことへの忙しさと、何もしないことへの忙しさ。 そして、そのあり余る時間に漂えば、青い海と碧い空へと続く美しい川の流れがそこには・・・、朝はグダグダに始まり遅い朝食からの一日。
「タキス、今日は港まで買い出しに行くとか言ってたな」
「止めたよ、面倒になった。 それより泳ぎに行かないか、トコマ」
アテネで知り合ったタキス、この集落でただ一軒のバーを夏の間だけ店に寝泊まりし営業している。 俺は毎夜、開店前から閉店後まで入り浸り、朝は集落のメシ屋でタキスと顔を合わせる。
「バスにするのか?」
「バスで行くには忙しすぎる。 でも帰りはバスにしようぜ、登りはキツい」
山にあるこの集落と港を結ぶバスは日に三往復あるが、島を訪れる数少ない観光客のために港とは反対側のビーチまでシーズンの間だけ足を伸ばしている。 朝のバスには既に遅く、昼のバスを捕まえるには急がなければならない今の時間を考えれば、歩くのが妥当だろう。 ビーチまでは崖を下って一時間ほどの距離、いつも時間が余っているので歩くことには慣れている。 それでもその崖を登ると二時間ほどかかり、帰りはさすがにキツい。
「一時ぐらいに出ようぜ、その前に店の片付けをしたいんだが・・・、手伝ってくれるよな、トコマ?」
「そうだと思ったよ、昨日はだいぶ散らかしたからな」
店の片付けの後に軽いランチを取り、ビーチに向かう。 白く塗られた集落の細く曲がりくねった階段上の道を抜けると、そこには青い空と碧い海しか見えない崖。 その崖に作られた羊飼いのための葛折りの道を下ると海になる。 全く人の気配を感じさせない海岸、そして遠には白く塗られた修道院が崖にしがみついている。 しばらく海岸伝いに歩くと一般向けのビーチとなるが、誰もいない。 しかしその先に進むとヌーディストビーチになり、それなりに人がいる。
ヌーディストビーチには相変わらず女の子が多い。
「モニカ、今日も店に来るかい?」
「多分ね」
何人かの顔見知りの子と挨拶を交わし、砂浜にバスタオル広げる。 相変わらず見えるものといえば、青い空と碧い海。 そして少しだけ変わったといえば裸の人間が少しだけ増えたことか。 きっと数千年前のギリシャ人と余り変わらない、それが青い空と碧い海の狭間で毎日が続く小さな島のバカンス暮らし。