一月の終わり、真冬のニューヨークからグレイハウンドで二泊三日、朝日が登る前にテキサス、ラレードに着いた。 未だに早朝の静けさを保つイミグレーションオフィス、昇る朝日を浴びながら国境の橋をひとり歩いて渡る。 橋の向こうはメキシコ、ヌエボ・ラレード。
空気が変わった。
そこにあったのは、一本の線。 橋の途中に引かれた一本の見えない線を越えた瞬間に、世界が変わった。
メルカドに差し込む日差しはすでに初夏。 乾いた土埃の匂いが雑踏を追いかけ、一日の始まりを告げている。
「そうだ、ヒッチハイクでメキシコシティを目指そう」
ウールの靴下に木靴、サボを履いていながらもそんなこと口走るほどに世界は変わっていた。 荷物といっても僅かな着替えを放り込み、寝袋を括り付けた小ぶりのショルダーバッグだけ・・・まあ、何とかなるだろう。
国道を親指を突き上げながら歩く、メキシコシティを目指して南下する。 三時間ほど歩くが車が止まらない。 そして眩しい初夏の日差しが体に残る二泊三日の長距離バスの疲れを呼び戻す。 何とかなるだろうと甘く考えたことを後悔し始めた。
日陰を求めブッシュに潜り込み体を休めるが、日差しは強くなるばかりだ。 そこにあるのは赤茶けた乾いた大地に続く一本の道、その道を南へと歩き続ける以外の策はない・・・そして車を見つけては親指を突き上げる。
車が止まった。
止まったのは、ポリスカー!
オフィサーがスペイン語で話しかけてきたが、俺はまったくスペイン語が分からない。 英語と身振りでメキシコシティまでのヒッチハイクだと、何度も彼らに説明する。
どうにか話が通じたようだ。 オフィサーは身振りで、俺にちょっと待てと言っているようだ。
オフィサーが一台のバスを止めた。 彼はバスの運転手としばらく話をした後に、俺を手招きしバスに押し込んだ。 どうやら長距離バスのようだ。 言葉がまったく通じない運転手と車掌に促され、俺はバスの最後尾シートへと。
マジに最高!
冷房効きまくりの最後尾のベンチシートに横たわればニューヨークのくすんだ冬の空はすでに遠い記憶、只々パラダイスの快適さ。 言葉は通じないが、とにかくバスの乗員乗客皆んなに笑顔で礼を言いまくり爆睡決定。
数時間の爆睡、気付けばバスは終点バスターミナル。
車掌は俺をバスターミナルのメキシコシティ行きのチケットカウンターまで連れて行き、笑顔とアディオスの言葉を残して去って行った。 俺は彼の背中にグラシャスの言葉を投げかけ、もちろんメキシコシティ行きのチケットを手にした。
さあ、夕方にはメキシコシティ!