ヒッチハイクの女神が微笑む時

 キャンプ&ヒッチハイク・カナディアンロッキー観光ツアーからの帰り道、オカナゴンレイクのウエストサイドロードの入り口で親指を突き上げる。 ここまで来ればヒッチハイクも最後の一台になるだろう。 時間はまだ昼過ぎ、ウエストサイドロードからジョンのキャビンまで二時間ほどのトレッキングになるが、明るいうちに着くのは確実だ。

 一台のピックアップが止まった。

 ジャロピーを運転していたのは車に似合ったヒッピー。 彼らヒッピーは旅行者にとても優しい。 まあ、彼ら自身が旅行者であり続けている人種だから。 

 「どこまで?」

 「ホワイトクリークまで」

 「ホワイトクリーク? そこに知り合いでも?」

 「そこから十キロほど奥に友達が」

 「えっ、もしかして君ら、トコマとリマじゃないのか?」

 「ジョンの友達?」

 「ああ、ジョンから君らの話を聞いてるよ。 ところで今、ジョンは出かけてるぜ。 急用でエドモントンに行ってて、帰るのは一週間先になるはずだ。 まあそれまで俺の家に居ればいいさ、どうする?」

 偶然というか、超ラッキーというか・・・ヒッチハイクには幸運の女神が微笑んでくれる。 誰もいなくても勝手にキャビンを使っても構わないとジョンに言われていたが、俺達は即座に彼の誘いに乗った。

 俺とリマを拾ってくれたヒッピーはイエローベアー、カナディアン・ネイティブの祖父が付けてくれた名前とか。

 彼が住んでいたのはジョンのキャビンから30キロほど離れた森の中に拓かれた農園。 そこには六軒の不思議なデザインのDIYハウスが散らばり、そして共同の馬小屋にグリーンハウス、サウナに水利システム、しかもイベント広場にはバレーコートまでという驚くべきコミューンだった。 まさに映画にでも出て来そうな風景、森に囲まれたファンタジーランドとしか言いようがなかった。

 「素晴らしい所だろう、トコマ?」

 「確かに。 しかし最初は大変だったろう」

 「老人の農園を受け継いでこのコミューンを作ったんだが、楽しかったよ」

 イエローベアーはこの農園コミューンの初期メンバーで、ティーピィを模したDIYの木造りの二階建てに家族三人で暮らしていた。 そして俺とリマはイエローベアーがゲスト用に建てた離れのキャビンを使わせてもらい、このコミューンでの生活を楽しむこととなった・・・ヒッチハイクの女神からの素晴らしい贈り物に違いない。

 「そうだリマ、コミューンの皆んなで君らの歓迎パーティーをやろう」

 「素敵だわ、どんなパーティーにするの、イエローベアー」

 「料理を持ち寄っての野外パーティーさ、リマも料理を作るだろう」

 「もちろんよ、ねぇトコマ」

 「えっ」

 俺とリマは遠い国からの旅行者としてコミューンの皆んなに紹介され、大歓迎。 それぞれの拘り過ぎたDIYハウスの苦労話に内見、そしてバレーボール大会まで揃ったアクティブ歓迎パーティー。 しかも毎日はコミューンの誰かと会ったり農場や色々なDIY設備を覗きに行ったりと動き回り、疲れた体にはサウナでリザクゼーションと滞在中に退屈する暇などまったくなかった。

 カナディアンロッキーのキャンプ&ヒッチハイク観光ツアーの帰り道、ジョンが偶然にも留守にしていたということで出会った奇跡に寄り道。 その寄り道はきっとヒッチハイクの女神が俺達に微笑んで、あの荘厳なカナディアンロッキーを越えた先の景色を見せてくれたのではないかと・・・少しばかりの遠回り、そこには本当の素晴らしい景色が広がっていた。

 

 

 

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